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大阪地方裁判所 昭和54年(ヨ)605号 決定

1 申請人が次のような実用新案出願をし、出願公告がなされた結果、現に右実用新案についていわゆる仮保護の権利(出願公告の効果として認められる権利)を有していることは当事者間に争いがない。」

出願日   昭和四三年九月三日

公告日   昭和五四年二月八日

公告番号  実公昭五四―二九一四

考案の名称 折立て組紙箱

登録請求の範囲(省略)

2 申請人は、被申請人らが業として製造販売しているイ、ロ、ハ号の折立組紙箱は前記実用新案の技術的範囲に属すると主張して、被申請人らに対し前記仮保護の権利に基き右イ、ロ、ハ号の折立組紙箱の製造販売の差止請求権を有するというのである。

3 そこで、申請人がはたして本件実用新案に関する仮保護の権利に基き権利侵害者に対し差止請求権を有するか否か、すなわち本件仮処分における被保全権利の存否について検討する。

(一) まず職権により適用法令について調査するに、実用新案法がいわゆる仮保護の権利に基く差止請求権を明文をもつて認めることとしたのは昭和四五年五月二二日法律第九一号の特許法等の一部を改正する法律施行後のことである(施行日は右改正法附則一条により昭和四六年一月一日。現行実用新案法一二条二項、二七条参照)。しかるところ、申請人の本件実用新案の出願は前記のとおり昭和四三年九月三日になされたものと解されるから右改正法施行の際すでに特許庁に係属していたということができる(疎甲第一号証の一によれば、本件実用新案は、出願日を昭和四三年九月三日とする実願昭四三―七六一七〇の分割出願であつて、分割出願日自体は新法施行後である昭和四六年三月二四日(実願昭四六―二〇六三二)となつていることが窺われるが、実用新案法九条一項、特許法四四条二項によると分割出願はもとの出願の時にしたものとみなされるのであつて、右の関係は特許庁における事件係属時点を定める場合にもそのまま妥当させるべきである。そして、このことは申請人も当初から自認して争わないところである。冒頭1の説示参照)。

そうすると、申請人の本件実用新案の出願については、前記改正法附則六条、二条により「別段の定めがある場合を除き、その出願について査定又は審決が確定するまでは、なお従前の例による」必要がある。そして、右に「別段の定め」とは改正法の附則五条(手数料については改正法施行前の出願についても改正法を適用する旨定めた経過規定)と同九条(経過措置に関し一部を政令に委任したものであるが、これを受けた政令には仮保護の権利に関する経過措置について定めたものはない)を指すと解され、他に別段の定めは見当らない。

それゆえ、申請人の本件実用新案に関する仮保護の権利の内容は前記改正法施行前の実用新案法(以下、これを旧法といい、改正法を改正新法という)によつてこれを定めなければならない。

申請人は、右改正新法の附則により「従前の例による」のは専ら出願手続に関してのみであり、出願公告の効果のような実体法上の効力に関しては法適用の一般原則に従い改正新法を適用すべきである旨主張している。しかし、右附則二条を申請人主張のように制限的に解さなければならない文理上または条理上の合理的な根拠は見出し難い。

現行法の母体である実用新案法(昭和三四年法律第一二三号、昭和三五年四月一日施行)施行にさいし定められた同法施行法においては、その四条において大正一〇年法律第九七号の実用新案法による仮保護の権利であつて右昭和三四年法施行の際現に存するものは、同法施行の日において同法によつて認められる仮保護の権利となつたものとみなす旨定める一方、その二一条において昭和三四年法施行の際現に係属している実用新案登録出願については、その査定又は審決が確定するまではなお従前の例による旨等を定めており、これによると右施行法は仮保護の権利内容について特別の経過措置をとつていること申請人所論のとおりである。しかし、右施行法四条の趣旨は、昭和三四年法施行の時点ですでに大正一〇年法によつて付与された効力を有している仮保護の権利について、爾後これを昭和三四年法で付与された仮保護の権利であるとみなそうとするものにほかならず、本件のように改正新法施行の際いまだ仮保護の権利を与えられていない出願事件に関する規定ではない。したがつて、申請人が本件につき右施行法四条の趣旨を自己に有利に援用すること自体適切なこととはいい難いことであるし、そもそも右施行法四条の趣旨をそのまま本件改正新法(昭和四五年改正法)の経過措置として適用または類推適用しなければならないいわれはない。かえつて、本件改正新法の附則が前記施行法二一条一項と同旨の定めである二条のような一般規定をもうけながら施行法四条にみられるような仮保護の権利に関する特段の定めをしなかつたのは、仮保護の権利についても附則二条の一般則によることを示しているものであると解する方が立法者の意図にも合致し合理的であると考えられる(特許庁編「工業所有権法逐条解説」昭和四六年改訂版三九〇頁参照)。

その他、以上の点に関連して、申請人の主張中には、附則二条のように「なお従前の例による」とある場合の旧法適用の根拠規定は右附則二条そのものであつて、旧法自体は廃止され失効しているが、「旧法がなお効力を有する」と定めた場合の旧法適用の根拠規定は右の定めに基き効力が生き延びることとなつた旧法そのものであり、両者は厳格に区別すべきである旨指摘しているところがある。そして、右のような指摘自体はその文理に照らし極めて正当である(佐藤達夫 林修三編「法令用語辞典」一〇版五七六頁参照)。しかし、右のような法令用語上の用法の差異が直ちに申請人の前記主張(本件について改正新法を適用すべきであるとの主張)を裏付ける証左となるわけのものでもない。すなわち、申請人が主張するように「従前の例による」とある場合には「旧法がなお効力を有する」と定めた場合よりも自由な解釈が許容されると解さなければならないいわれはない。

申請人は、また、本件実用新案は登録出願から公告にいたるまで実に一〇年余を経過しており、その実質は改正新法施行後の出願事件に等しく、しかもこのような長期の審査を要したことについては申請人には何ら責められるべき点はないところ、附則二条の立法者は当時このような特殊な事態を予期していなかつたと思われること、もし予期していれば本件の如き場合については差止請求権を認める明文の経過規定をもうけたはずであり、そのような配慮を示していないのは立法上の不備であること等に照らすと、裁判所は附則二条の解釈適用にさいしては須らく条理に照らし法規を補充、創造する心構えで右立法の不備を補うようにし、もつて正義を実現すべきである旨を主張しており、右のような主張は一定の限度で首肯すべき点がないではない。しかし、その是非は別として、特許庁における特許出願等の審査のうちその相当数が相当に長期の期間を要する実情にあることは当裁判所にも顕著な事実であり、本件の審査期間のみがしかく例外的に長期であつたとは必ずしも即断し難い点があり(ことに本件の審査は実際には分割出願のあつた昭和四六年三月二四日以降はじめて可能となつたものであるほか、本件は審判手続をも経由した事案であることが疎甲第一号証の一によつて疎明されているのであつて、これらの事情をも考えると、申請人の審査期間一〇年余という主張は実質的には不正確のそしりを免れない)、また、もともと審査期間の長短によつて本件附則二条の解釈適用を左右することは恣意に過ぎて法的な安定、公平を保つゆえんでもない。よつて、申請人の前記主張も採用しない。

(二) そこで、本件は旧法によつて論ずべきところ、旧法一二条三項は仮保護の権利につき二七条(実用新案権者等の侵害者に対する差止請求権を定めた規定)を準用していない点において改正新法一二条二項と異なることが明白である。

したがつて、旧法においては仮保護の権利に基く差止請求権を認める根拠規定はないと解するのが相当である。旧法一二条一項が仮保護の権利者に業として当該出願にかかる考案の実施をする権利を専有すると定めていることをもつて、直ちにこれを差止請求権の根拠とすることは相当でない。けだし、もしそのように解するのであれば、旧法一二条二ないし四項において仮保護の権利に基く不当利得返還と損害賠償との請求権について二八条から三〇条までの規定を準用する等種々の配慮を示しながらことさら二七条を準用しなかつた点と整合した説明が困難であると思われるし、また旧法一二条二項が右債権的請求権についてすら登録のあつた後でなければ権利行使ができない旨定めているのに、いま明文の根拠もないままこれより一層強力な物上請求権を認めることは仮保護の権利内容としては著しく彼此均衡を失するといわねばならないからである(大阪高裁昭和三九年一一月二六日判決下民集一五巻一一号二〇七頁参照)。

そして、他に旧法上の仮保護の権利に申請人所論のような排他性を認めるべき合理的な理由は見出し難い。

(三) はたしてそうだとすれば、申請人は本件実用新案に関する仮保護の権利に基き差止請求権を有するものということはできない。

4 そうすると、申請人の本件仮処分申請は爾余の点について考慮するまでもなく被保全権利を欠くこと明白であり、かつ本件は仮処分理由の疎明にかえて保証を立てさせてその申請を認容することも相当でない。

よつて、本件仮処分申請はこれを却下する。

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